MEGANE R.S.
Riding Comfort
メガーヌ・ルノー・スポール(以下、R.S.)といえば、スポーツカーの聖地ともいえる独ニュルブルクリンク北コース(以下、ニュル)で幾度となくタイムを塗り替えて、“FF最速”の名をほしいままにしてきた。
しかし、そのシャシー開発を率いるフィリップ・メリメは「R.S.の開発はサーキットが3割、残り7割はオープンロード(公道)」と明言する。また、メガーヌR.S.によるニュルアタックを担当してきたテストドライバーのロラン・ウルゴンも「オープンロードでしっかり快適に走るのがR.S.の大前提」と言い切る。
もっとも、通常はサーキットでのパフォーマンスを突き詰めるほど、日常的な快適性が犠牲になってしまいがちだ。しかし、R.Sがオープンロードでの乗り心地に妥協しないのは、あらゆる路面で最高のパフォーマンスを発揮するには、実はしなやかなフットワークが絶対に欠かせないからである。
R.S.が一貫してニュルでの開発にこだわってきたのは、「グリーンヘル(緑の地獄)」という異名も持つニュルの全長およそ21kmの長い距離に、あらゆる曲率のコーナーに強烈なアップダウン、ブラインドコーナー、ジャンピングスポット、ヒビ割れにうねり、ツギハギなどなど、ありとあらゆる路面状況が集約されているからだ。そんな過酷なニュルで徹底的に鍛えられたR.S.だからこそ、必然的にどんな道を走っても安心できて楽しく、引き締まっているのにしなやかな乗り心地となる。
現行メガーヌR.S.が、歴代モデルの中でも圧倒的にしなやかな走りを実現した秘密のひとつに、ラリーカーの技術から転用された「4輪ハイドロリックコンプレッションコントロール(4HCC)」がある。それは通常はゴムやウレタンなどのパンプストッパーが担当する最後の踏ん張りを、強力なセカンダリーダンパーが吸収する仕組みで、サーキットのゼブラゾーンに乗り上げた時などの衝撃もぴたりと吸収するだけでなく、その手前の領域もしなやかな設定にすることもできる。“日常域ではしなやかなのに、過酷なコーナーほどコシが出る”というメガーヌR.S.特有のフットワークは、この4HCCによるところも大きい。
さらにメガーヌR.S.で世界に衝撃を与えたのが、4輪操舵機構の「4コントロール」である。中低速域ではリアタイヤをフロントと逆に操舵することで俊敏な回頭性を、高速域ではリアもフロントと同方向に切ることで、スタビリティを飛躍的に向上させる技術である。
本来、最新のハイグリップタイヤを履きこなすには、サスペンションを引き締めて、巨大なエアロパーツで車体を地面に押しつけるのが常套手段である。しかし、4コントロールがあれば、そうした極端な調律をする必要がない。メガーヌR.S.が快適な乗り心地のまま鋭く曲がり、大げさなエアロパーツがなくとも超高速ですこぶる安定しているのは、そんな4コントロールのおかげといっていい。
R.S.が世界のエンスージァストに熱く支持されてきた理由は、サーキットでのパフォーマンスだけではない。冒頭の「サーキット3割、オープンロード7割」というこだわりの開発比率からも分かるように、あらゆるシーンで速く楽しく、快適性も損なわれないのが、R.S.の真骨頂だ。しかも、それを安易な電子制御の可変技術だけに頼らず、信頼性が高く、人間の感覚にシンクロする伝統技術によって実現しているのがR.S.らしいところだ。そんなR.S.は今ではアルピーヌブランドに統一されて新しい時代へとの踏み出している。この最後のメガーヌR.S.は、歴代R.SのDNAがすべて凝縮された、R.S.の最終進化形態でもある。
サスペンションの最後の踏ん張りをダンパー底部に内蔵されたセカンダリーダンパーが、しなやか、かつ確実に受け取める。サーキット走行でのゼブラゾーンのほか、オープンロードでの減速バンプやジョイント、大きな凹凸などの強い衝撃をHCCが担当することで、その手前の領域の減衰力を固めすぎる必要もなくなる。複雑な電子制御に頼ることなく、幅広い領域でのパフォーマンスと快適性を両立するルノー・スポールらしい技術だ。
リアタイヤを低速ではフロントと逆方向、高速では同方向に操舵するR.S.独自の4輪操舵システム。リアの操舵角度はクルマに張り巡らされたセンサー情報をもとに制御されて、中低速では高い回頭性を、高速ではまるで見えないレールがあるかのような安定を発揮する。4輪操舵にはロールを減少させる効果もあり、サスペンションをガチガチに締め上げなくても、高い操縦安定性が実現できるのが4コントロールの大きなメリットだ。
メガーヌR.S.の卓越した操縦安定性と乗り心地をさらに高める販売店オプション。サスペンションのショックアブソーバーと同構造の減衰機能をボディに取り付けるだけで、走行中のボディに発生する微細な振動をいち早く収束させて、乗り心地の改善や操縦安定性を大幅に向上させる機能部品だ。段差の乗り越えやレーンチェンジ、荒れた路面での突き上げなど、日常域での安心感や快適性の向上に特に効果的とされる。