2020.11.06
ALL NEW Renault LUTECIA Debut NEW ARRIVAL 01:変化の時代こそ問われる大定番の実力とは。新型ルーテシアにフランスで試乗する。
変化の時代こそ問われる大定番の実力とは。
新型ルーテシアにフランスで試乗する。
いよいよ日本に上陸した新型ルノー ルーテシア。
先行して発売されている欧州ではすでにベストセラーで、特に本国フランスでは頻繁に見かける。
今回はパリ市内と郊外で試乗したインプレッションをレポートする。
骨太になった、または体幹が強くなっただけでなく、「ルノー ルーテシア」としての真芯をこれまで以上に貫いてきた。それがフランスの道で5世代目、新型ルノー ルーテシアを走らせた印象でした。
フランスで「シタディーヌ」と呼ばれる欧州Bセグメント*、その中心となるハッチバックは、フルモデルチェンジ毎にシルエットやプロポーションを大胆に刷新してきたものです。が、新型ルーテシアは先代のアイデンティティを継承しつつ磨き上げる手法を採りました。プラットフォームから一新したにもかかわらず、です。それは並み居る欧州Bセグメント・ハッチバックの中で、指標モデルとしてのプライドと正常進化を示す方向性といえます。とはいえローレンス・ヴァン・デン・アッカー(ルノー コーポレートデザイン担当上級副社長)のデザインによる4世代目モデルの登場時は、その大胆さが話題を呼んだものでしたが。
5世代目も同じく彼のデザインで、全体のシルエットやリアウインドウ枠と一体化したドアハンドルなどは引き継ぎつつ、「ルノーメガーヌ」同様に、C シェイプの前後ライトセクションにフルLEDを採用し、よりスポ―ティなマスクとなりました。少し低くワイドトレッドになり、後席の足元スペースを広げて荷室との配分を最適化した結果、391Lものトランク容量を実現。今回試乗したモデルにはBose®サウンドシステムが備わり、そのサブウーファーを張り出さずに配することで、ミリ単位で室内空間が広くなるように突き詰めました。ボディサイズは4代目とほぼ変わらず、スペースのプライオリティを巧みに考えたことで、広く使いやすいトランクも確保しています。
運転席に身体を預けて驚くのは、インテリアの仕上がりのレベルの高さです。肉厚な造りでレザートリムのスポーツシートや、ドライバーの膝元が広くなる緩やかなS字を描いたソフトな手触りでカーボン目地の型押しダッシュボード、7インチ タッチスクリーンとエアコンの3連ダイヤルを分けるなど、快適性と高級感がもたらされています。
いざ走り出して気づくのは、他のハイブリッドやEVに引けをとらないほどの、出足の速さに代表される「攻めた制御」、続いて足回りやボディの強烈かつ強靭な剛性感です。カキッとした固さではなく、段差や石畳の上ではしなやかで、高速道路の上では滑るようなスムーズな乗り心地、曲がる時にロールは許容するのにスッと舵が決まるルノーならではのハンドリングは健在。クイック過ぎないのにドライバーの意志を忠実に反映するステアリングフィールも、飽かず疲れさせずの絶妙な味つけで、加えて丈夫なボディに守られている感覚が、街中でもカントリーロードでも、路面や状況を選ばず安心感に繋がります。
そして、新型ルーテシアは運転支援機能でも積極的です。バイパスや高速道路など白線や鎖線の明確な場面でクルーズコントロールなどをオンにすると、車線センターをキープしようとする制御のモーター駆動が、ステアリングを通じて手元にかなり伝わってきます。ステアリングの補正やスピード制御のどちらもサポートしてくれる、そんな感覚です。
ルーテシア代々の強みは、同セグメントでなく上のセグメントを目標に開発され続けてきたこと、それに尽きます。だからこそBセグメントをつねにレベルアップさせ、フランスらしい生活観を貫くハッチバックになりました。フランスの都市部でも車を取り巻く環境は厳しくなりつつありますが、逆にBセグメントが街だけに留まる必要はないがゆえ、より自由に逞しくなった、それが新型ルーテシアの解といえます。それこそが、古いものを大切にしつつも進歩史観が大好きで新しいものに目がないフランス人たちに、受け容れられている理由に他なりません。
*車を車体の大きさや車重、排気量、価格帯などを基準としてカテゴリー分けしたひとつの基準のこと。Bセグメントは日本でいうコンパクトカーにあたる。
南陽一浩 Kazuhiro Nanyo ライター
自動車や旅行、男性ファッション界などで執筆。フランスで修士を取得し、13年住んだ後に帰国。コロナ前までほぼ毎月パリに取材で通う生活。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)の会員。