2017.04.06
RENAULT PRESSE #63 WHAT’S NEW:歴史を創ってきたメガーヌR.S.。 フィナーレを記念した特別仕様が登場
“世界最速FFスポーツ”として一時代を築いた現行メガーヌR.S.(以下メガーヌ3 R.S.)の歴史は、その最終進化形態といえる限定車「メガーヌR.S. 273 パックスポール」、および「メガーヌR.S. 273 ファイナルエディション」で、ついに幕を閉じることになる。
メガーヌ3 R.S.がヴェールを脱いだのは、2009年のジュネーブ・モーターショーである。日本国内デビューの場は、翌2010年12月のフランス大使公邸が選ばれた。
メガーヌ3 R.S.は、前身となるメガーヌ2 R.S.で培われた独自の要素技術を、よりポテンシャルの高い3代目メガーヌ クーペ*に移植したクルマだった。その要素技術とは、2.0LターボのF4Rt型エンジン、トルクステアの排除に成功したダブルアクスル・ストラット式フロントサスペンション、そしてヘリカルL.S.D.やブレンボ製ブレーキなどである。
3代目メガーヌ クーペは先代R.S.のベースとなった2代目のメガーヌ ハッチバックより低重心で空気抵抗も小さく、ボディは高剛性。しかも、リアのトーションビームにロール剛性がより高いパイプ構造を採用したことで、基本フィジカル能力の向上は明白かつ飛躍的なものがあった。
メガーヌ3 R.S.はこれらメカニカルな要素技術に加えて、車両各部のセンサーや電子制御スロットルの能力を引き出す「R.S.モニター」や「R.S. ダイナミックマネジメント」を新搭載。“機械”と“電子”をこれまでにない形で融合させたFFスポーツだったわけだ。
ルノー・スポールのクルマづくりの身上は「モータースポーツ直結」と「本当に速いクルマは公道でも安全で楽しい」である。クローズドサーキットでの速さだけでなく、本物の生きた道で鍛えるのが彼らの手法である。
日本ではあまり知られていないが、メガーヌ3 R.S.はラリーでも活躍した。市販型と同時開発された「N4」はターマック(舗装路)ラリー専用マシンとして欧州ラリー選手権などに出場。なみいる日本の4WDマシーンを向こうに回して大活躍した。
世界最高の難コースとして知られる独ニュルブルクリンクでのタイムアタックも「本物の道でクルマを鍛える」というルノー・スポールのクルマづくりの一環である。
メガーヌ3 R.S.は2011年6月、初のニュル北コース(当時)でタイムアタックを敢行。ルノー・スポール自身(メガーヌ2 R.S.トロフィー)が所持していた“市販FF最速タイム”を更新する8分7秒97を叩き出した。
さらに、わが日本はルノー・スポールにとって世界でも5指に入る重要市場である。2013年4月、彼らとしては欧州以外で初となる開発テストのため来日。「ルノー・スポール・ジャパンプロジェクト」と称した同テストでは、鈴鹿サーキットでのタイムアタック(この時のラップタイム2分33秒328は、市販FF車では実質最速)を実施したほか、日本の高速やワインディングでもテストした。
その間にも、エンジン出力アップ(250ps→265ps)やスタート&ストップ機能の追加、メガーヌ本体のマイナーチェンジなど、改良の手は緩められることがなかったが、なかでも究極といえるのはやはり、2014年末に発表された「トロフィー」シリーズだろう。
そのトロフィーの最強版となる「トロフィーR」は、2シーター化による軽量化のほか、アクラポヴィッチ製チタンマフラー、前記「N4」で培われたオーリンズ製調整式フロント・ダンパーやコンポジット・フロントスプリングなどを装備していた。エンジンも273psというF4Rt型の史上最高出力もさることながら「5,000rpm以上のトルクの落ち込みを抑制する」というチューニングは、本物の道で鍛えられてきたルノー・スポールならではのノウハウといっていい。
この史上最強メガーヌ3 R.S.はニュルにおいて、ついに8分を切った7分54秒36を記録。それはFFスポーツの常識を塗り替える歴史的な瞬間となった。
その後、2014年11月13日には2度目のジャパンプロジェクトとして鈴鹿を訪れる。ニュルに続いてアタッカー役を務めたロラン・ウルゴンは、実質的に市販FFレコードといえた前回タイムを5秒近くも短縮する2分28秒465を記録した。
今やメガーヌ3 R.S.と同等の速さを標榜する市販FF車が、世界にいくつか存在するのは否定しない。ただ、そうしたライバルの大半は、直噴エンジン、可変ダンパー、電子制御デフ、デュアルクラッチ・トランスミッションといった電子技術のカタマリと化している。対して、メガーヌ3 R.S.をメガーヌ3 R.S.たらしめている主要技術は、良くも悪くも10年以上磨きあげられてきた古典的なメカニカル技術の集大成なのだ。
現在販売されているメガーヌ3 R.S.の最終モデルは、あのトロフィーRと共通の273psを積んだメガーヌR.S. 273である。“273”は限定車のパックスポールやファイナルエディションとともに、正真正銘、掛け値なしに最後のメガーヌ3 R.S.ということになる。
負けることがなにより嫌いなルノー・スポールだから、次期メガーヌR.S.が最新の電子制御技術でさらなる速さを追求していくであろうことは容易に想像できる。しかし、いっぽうで究極のメカニカル技術で世界最速の座を勝ち取ったメガーヌ3 R.S.に、ひとつの“美学”を感じ取るエンスージァストも多いはず。その究極の美学を手に入れられるのは、本当に今が最後のチャンスである。