2019.04.12

RENAULT PRESSE #87 Column:私のフランス歳時記 VOL.2 PRINTEMPS ジヴェルニーのモネの庭 Jardin de Monet à Giverny


  • Renault Presse #087, APRIL 2019
    Words & Photos by Mari Matsubara
    Illustration by Toshiyuki Hirano
  • 私のフランス歳時記 VOL.2 PRINTEMPS
    ジヴェルニーのモネの庭 Jardin de Monet à Giverny

  • 長い冬が終わり、木々がいっせいに芽吹く頃、
  • パリの人々は待ちかねたように春の陽光を求めて小旅行へ出かけます。
  • クルマで1時間ちょっとのジヴェルニーに、モネの家と庭を訪ねました。
  •  フランスの北西部ノルマンディー地方はパリからクルマで1〜2時間くらい。のどかなリンゴ畑と牧草地が広がる内陸と、海に面したリゾート、両方の魅力が味わえるとあって、パリジャンたちにとって恰好のドライブ旅行先であり、また別荘地としても人気の地方です。ノルマンディー地方の中でもパリを含むイル・ド・フランス地方に接したセーヌ川のほとりにジヴェルニーの集落があり、ここに印象派の画家クロード・モネの家と庭園が残っています。


  •  モネの有名な睡蓮の作品をご覧になったことがある人は多いでしょう。晩年になってモネが取り憑かれたように描いた200点以上の睡蓮の作品は、このジヴェルニーの庭から生まれたものです。1883年にモネはジヴェルニーの借家に移り住みました。旧態依然としたアカデミズムから距離を置き、光を求めて戸外で絵を描き、刻々と移りかわる自然の一瞬の残像を捉えようとしたモネにとって、ジヴェルニーはまさに理想的な環境でした。1890年にはこの家と地所を購入し、さらに3年後に買い増した隣の敷地に、あの睡蓮の浮かぶ池を作ったのです。現在、モネの家と庭は毎年3月末から10月末頃までの間、見学できるようになっています。

     敷地に入っていくと、2階建ての母屋の前に花の庭が広がっています。春は水仙、チューリップ、その後を追うように牡丹、コクリコ、アイリスが続き、4月も後半になれば太鼓橋の上には藤の花房が垂れ下がり、風に揺れる柳の枝が池の水面を撫でます。6月にはバラが咲き乱れ、7月には睡蓮が次々に花を咲かせ、夏の盛りにはダリアやユリ、ナスタチウムにラベンダー…… 手入れの行き届いた庭には、季節ごとに異なる花々が咲き乱れます。花の色の配置をパレットのように計算して植栽を進め、また夏の間は毎朝池の睡蓮の葉っぱや水中の藻を取り除くなど、モネ自身が積極的に庭仕事に取り組んだそうです。


  • 季節ごとに咲き誇る花々
    モネの義理の娘が没した1947年以降荒廃した時期もあったが、70年代から美術アカデミーや篤志家のメセナによって庭は元通りに整備された。春、チューリップの群生は特に見もの。縁がギザギザになった新種のチューリップも植えられて。


  • 写生と庭仕事に没頭したモネ
    睡蓮の池がある「水の庭園」には小川も流れ、曲がりくねった小径を歩けるようになっている。鬱蒼としたポプラと柳の木陰にモネの胸像が。毎日のように麦わら帽子をかぶって庭に降り、蓮池を朝方、夕暮れ時と異なる光のもとに見つめた。


  •  さて家の中に入ると、1階の食堂の壁に浮世絵がたくさん飾ってあるのに目を奪われます。モネは熱心な浮世絵コレクターでした。19世紀半ば頃からフランスの芸術家の間で「日本趣味=ジャポニスム」が流行し、モネも魅了された一人でした。池の上に太鼓橋を作ったのも、まさに日本庭園に感化されてのこと。自分で庭木のカタログを取り寄せ、日本由来のカエデや竹、イチョウ、柳、睡蓮などの苗を注文したのだそうです。2階はモネと家族の寝室、縫い物部屋などがあり、これらは2013〜14年に改修工事が終わって、昔の面影を忠実に再現したインテリアが整いました。美しい壁紙や調度品などを見ると、当時の生活の様子がしのばれて興味深いです。

     モネは43歳で移住し、86歳で亡くなるまでジヴェルニーに住んでいましたが、田舎に隠とんしたというわけでなく、客人を多く迎えたようです。というのも、当時パリとルーアンを結ぶ鉄道がすでに開通しており、その中途にあるジヴェルニーはパリからのアクセスも良かったのです。たとえば当時パリに滞在していた実業家の松方幸次郎は、姪の竹子とその夫・黒木三次などを伴ってモネの家を訪れ、作品購入を直接申し込みました。モネの睡蓮を含む松方コレクションは、のちの国立西洋美術館設立の礎となりました。松方や着物姿の竹子が、モシャモシャのあご髭を蓄えたモネとともに庭に佇む写真も残っています。戦後日本にいち早く西洋美術を知らしめた日本人が、ここでモネと交流を深めたと思うと感慨深いですね。

     ところでノルマンディー地方は酪農とリンゴ栽培が有名。ドライブ帰りに近くの町やリンゴ農家の直売所を訪ねてカルヴァドスやシードル、100%リンゴジュース、また地方特産の白かびチーズをぜひ買って帰りたいものです。


  • お土産には地元特産のチーズを
    ノルマンディー地方特産のチーズといえばカマンベールの他に写真の「ポン・レヴェック」がある。真四角の形が特徴で、12世紀頃から修道院で作られたという。ウォッシュタイプだが、ほとんどクセがなく、ミルクの味が濃厚で食べやすい。



  • 松原 麻理 Mari Matsubara
    9年間のパリ生活を経て、現在は東京で雑誌を中心に編集・執筆活動中。パリ在住中に取材・執筆した連載をまとめた『&Parisパリの街を、暮らすように旅する。』(マガジンハウス刊)発売中。Instagram @marianne_33


  • INFORMATION
    モネの家と庭(Maison & Jardins de Claude Monet)
    84 Rue Claude Monet, 27620 Giverny
    9:30-18:00 無休 / 入場料 €9,50
    ※2019年は3月22日-11月1日オープン
    パリからクルマで約1時間15分
    電車の場合、St-Lazare駅から約45分でVernon駅下車、そこからGiverny行きバスで20分
    (列車到着時刻の15分後に出発)
    fondation-monet.com


※掲載情報は2019年4月時点のものです。

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