2021.02.25
COVER STORY:フランス的なライフスタイルを形にした、エレガントな万能SUV
フランス的なライフスタイルを形にした、
エレガントな万能SUV
2013年に登場した初代ルノー キャプチャーは150万台を販売した。
ヒットした理由は、魅力的なデザインと優れたパフォーマンスだ。
2代目となる新型は、そうした美点がさらに進化・深化している。
美しいものと暮らしたい
初対面の新型「ルノー キャプチャー」は、想像よりも存在感があった。パンと張った面と彫刻的なラインを組み合わせた筋肉質なフォルムが、実際のサイズより大きく見えるからだ。ただし筋肉質といってもボディビルダーのようにマッチョなわけではなく、水泳選手やスプリンターの筋肉のようにしなやかで、繊細さを感じさせる。
力強さとエレガンスが共存するキャプチャーを眺めていると、「アール・ド・ヴィーヴル(art de vivre)」というフランス語の言い回しが頭に浮かんだ。ヴィーヴルとはライフの意味で、アートや美しいものと暮らすライフスタイルや、自分らしい生き方といった意味になる。キャプチャーのデザインからは、フランスの文化や暮らしぶりが透けて見えるような気がする。
乗り込んだ瞬間に「運転しよう!」という気分になるのは、ディスプレイがドライバーを囲むように傾けられていて、集中力が高まるから。宙に浮いているように見えるセンターコンソールや、シフトセレクターの斬新なデザインなどにも、やはり「アール・ド・ヴィーヴル」を感じる。
シートの掛け心地やハンドルの手触りなど、実際に体に触れる部分の“フィール”や“タッチ”が良いことはルノーの伝統だ。そして新しいキャプチャーは、手指が触れる部分にやわらかい素材を用いることで、その伝統をさらに進化させている。
走り出すと、余裕のある滑らかな加速に感心する。アクセルペダルを軽く踏み込むだけで、新開発の1.3L直列4気筒直噴ターボエンジンはリッチなトルクをタイヤに伝える。エンジン回転を上げなくても加速するから車内は静かで、それも余裕を感じることにつながる。基本的には新型「ルノー ルーテシア」に積まれるエンジンと共通であるけれど、SUVにふさわしいチューニングが施されており、そこからゆとりのある動力性能が生まれるのだ。
スムーズな加速の影では、デュアルクラッチ式のトランスミッション(EDC)が、黒子となって活躍している。変速があまりにスムーズで素早いから、運転しているとついその存在を忘れてしまいがちだけれど、キャプチャーのEDC(パドルシフト付電子制御7速AT)もやはり新開発。従来の6速から7速へと多段化されるなど、進化している。トランスミッションは、進化すればするほど存在感が薄くなるかわいそうな存在なのだ。ただし後述するけれど、黒子から表舞台に躍り出て、大活躍する場面もあった。
市街地、高速道路を問わずに感じるのは、クラスとサイズを超えた安定感のある走りだ。エクステリアのデザインを見たときに、しっかりと路面をとらえて踏ん張っているという印象を受けたものの、それは視覚だけのことではなかった。実際のドライブフィールでも、4本のタイヤががっしりと路面をとらえているという信頼感がある。
試乗した日は風の強い日だったけれど、キャプチャーは横風に吹かれてもフラフラすることなく、矢のように直進した。舗装の荒れた部分を通過したときのショックは、「タイヤ」→「サスペンション」→「ボディ」→「シート」という過程を経る間に角が取れた丸いものになる。
静かなエンジン、抜群の安定感と安心感、そして快適な乗り心地──。街中では取り回しのよいサイズもあってきびきびと走る一方で、高速道路でははるか彼方を目指したくなるグランドツアラーに変身した。後席やラゲッジルームも従来より拡大されているから、駅までの送り迎えから家族旅行まで、これ1台でなんでもこなせる。
万全の先進安全装備
安全・運転支援装備を試す。高速道路で走行レーンをキープしながら前を走る車両に追従する「ハイウェイ&トラフィックジャムアシスト」は、ハンドルのスポーク部分のスイッチで操作する。ハンドルから手を離さずに操作できるから安全だし、直感で操作できるインターフェイスのよさもうれしい。
しかも一時停止した場合には、3秒以内であれば前の車両に続いて発進する機能が備わるから、渋滞でのストレスや疲労が大幅に軽減される。こうした機能も、遠くまでドライブに行きたいという気持ちを盛り上げる。
先進機能はほかにも山盛り。たとえば、駐車時に真上から映したかのような画像を表示する「360°カメラ」は狭い場所で駐車する際に重宝した。車両や歩行者と衝突する危険を察知したときに自動ブレーキが作動する「アクティブエマージェンシーブレーキ」など、万全の備えになっているから、家族の誰がハンドルを握っても安心だ。
試乗の最後に、ワインディングロードで少しだけペースを上げてみた。市街地や巡航時にはクールだったエンジンは、回転を上げると活発な一面を見せるようになる。気持ちのいい乾いた音とともにパワーが盛り上がり、そういえばF1にターボエンジンを持ち込んだのはルノーだったというモータースポーツの歴史を思い出す。
ここで、黒子に徹していた7速EDCが本領を発揮する。パドルシフトを操ってシフトすると、電光石火の素早さで変速するのだ。しかも変速ショックはほとんど感じられない。適切なギアを選んでエンジンのおいしい回転域を使うという、スポーツドライビングの楽しみをダイレクトに享受できる。
快適な街乗り、家族や仲間と遠くを目指すグランドツーリング、そしてスポーツドライビング。新しいキャプチャーは、間口が広くて奥行きが深いクルマに仕上がっていた。そして、お洒落をしたくなるようなデザインや遠くへ出かけたくなるキャラクターによって、生活に新しい風を吹き込んでくれるような予感がした。
サトータケシ 自動車ライター
1966年生まれのフリーランスのライター/エディター。出版社で自動車専門誌の編集に従事した後に独立。現在は自動車をメインに時計やファッションなど、ライフスタイル全般の執筆や編集を手がけている。