2021.01.28
日本で味わう“フレンチ”の魅力とは? 新型ルノー ルーテシアで行く東京〜京都の旅
日本に上陸した新型ルノー ルーテシアで、フランスはパリの姉妹都市である京都を目指した。
コンパクトなボディからは想像できない、快適至極のロングドライブを振り返る。
精悍さを増した新型
京都・祇園の目的地に到着して驚いた。400km以上の道のりをひとりで運転してきたのに、身体がピンピンしているのだ。
夜が明ける頃に東京・渋谷を出発。第2東名、伊勢湾岸道路を経由して、2度の休憩をはさんで京都東インターまでが400km弱。そこから一般道で10kmほどを6時間以上かけて走ってきたのに、腰も痛くなければ背中が張っているわけでもない。このまますぐに仕事でもジョギングでもできそうだ。
しかもドライブしてきたのは、コンパクトな新型ルノー ルーテシアだ。これまでに自分のクルマとしてルノーの「カングー」や「メガーヌ」を乗り継いできたので、多少はこのメーカーを理解しているつもりだ。それでも、ルーテシアがここまで長距離ドライブに適しているとは想像がつかなかった。
このフランス生まれのコンパクトカーで駆け抜けてきた道のりを、出発時点に時計を巻き戻して振り返ってみたい。
まだ夜が明けきらない薄明かりの東京・渋谷のなかでも、新型ルノー ルーテシアはきらりとした存在感を放っていた。従来型に比べて大きくなったグリル、LED化されたヘッドライトとその周囲を囲む鋭いシェイプのデイタイムランプ、そしてボンネットやボディサイドの、彫刻刀で彫ったようなラインが、「ルック・アット・ミー」と強くアピールするのだ。
全体に、従来型ルーテシアよりもシャープで精悍な印象になっている。
運転席に腰掛けると、これだ、と思い出す。なんの変哲もない形状なのに、背中から腰にかけてふんわりと包み込むルノーのシートの座り心地を、体が覚えていた。
けれどもメーターパネルは、見慣れたルノーのものとは違った。すべてデジタル化され、ハンドルのスポーク部分のスイッチによってさまざまな情報を呼び出すことができるようになっているのだ。
iPhoneを接続すると、液晶パネルがApple CarPlayの起動したことを知らせる。Googleマップで目的地を設定して、いよいよ走り出す。
“ルーテシアでの高速巡航は快適で楽しい”
スタートしてまず体感するのは、エンジンの力強さだ。ルノー、日産、三菱のアライアンスで新開発した1.3リッター直列4気筒直噴ガソリンターボ・エンジンは、ゼロ発進からパワフルに車体を引っ張る。過不足のない実用エンジンという領域をはるかに超えていて、力感がみなぎっている。
高速道路に入ってもその印象は変わらない。登り勾配でも軽くアクセルペダルを踏み足すだけで軽々と加速する。快適にグランドツーリングができた理由のひとつは、余裕のあるエンジン性能だ。
組み合わされるデュアルクラッチ式の自動MTは、従来型の6速から7速に、巡航ギアが1速増えている。高速巡航時の車内の静粛性が高かったのは、エンジン自体がスムーズで静かであることに加えて、多段化によって高速巡航時のエンジン回転数が引き下げられたという理由もある。
西へ向かってトリップメーターの距離を積み重ねながら、不思議な感覚を味わう。それは全長4mちょっと、車重1200kgのコンパクトカーでありながら、大型車のようなどっしり感があることだ。重厚、という表現を使ってもいい。
4本のタイヤがしっかりと路面をつかみ、路面が荒れていてもピョコタンしないし、横風に遭遇しても、あおられてフラフラしたりしない。これも長時間の運転で疲れない理由のひとつだ。
コンパクトカーはきびきびと走る一方で、高速ではやや落ち着きがない乗り物だ、という先入観を覆される。
ともすれば退屈に感じる高速巡航であるけれど、ルーテシアに関してはそんなことはない。ひとつに、ハンドルの手応えがいいという理由がある。どんな路面状況でタイヤがどんな風に接地しているかが、まさに手に取るようにわかる。だから、「運転しているぜ」という実感が得られる。
ハンドルを切ると、どんなクルマでもハンドルを切った方向に向きを変えるわけだけれど、ルーテシアは向きを変える一連の動きがしなやかで、人の感性に合っている感じがする。車線変更ひとつとっても気持ちよく完了するから、高速巡航も楽しめる。ハンドルの手応えとか、サスペンションがスーッと沈み込む所作とか、数値化することが難しいタッチがことごとくいい味わいのクルマだ。
力強い加速と安定した姿勢、そして心地よいタッチ。ルーテシアでの高速巡航は快適で楽しい。100km、200kmがあっという間に感じる。
出発してから約300km地点の刈谷ハイウェイオアシス(愛知県)で2度目の休憩をとろうとルーテシアから降りた瞬間、シートの出来がばつぐんにいいことを、いまさらのように体が知る。腰を伸ばしたり、前屈運動をしたりしたい、という欲求を、体が訴えないのだ。
なるほど、このクルマはいままでの実用コンパクトカーとはひと味違う。
アダプティブクルーズコントロール、つまり、前を走るクルマについて行くメカニズムを試す。
操作は簡単で、ハンドルのスポーク部分に備わるスイッチを左手の親指で押すだけ。ハンドルから手を放す必要もないし、慣れればブラインドタッチで操作できるから視線を動かす必要もない。
メーターパネルに先行車両に追従していることが表示されると、ルーテシアは滑らかに加減速しながら前を走る車両について行く。加速と減速はともに人間の感性に沿ったもので、どきどきするようなことはない。こういう先進技術にも、チューニングの上手い、下手があるけれど、このルーテシアは上手い。
車線の中央を走るようにハンドル操作をアシストするレーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)との連携で、ハンドルに軽く手を添えるだけで高速道路を矢のように走る。今回はエンジンやハンドリングを試すために、10km程度しかこの運転支援装置を使わなかったけれども、本来ならもっと活用するはずだから、そうしていれば、疲労はさらに低減していただろう。
日仏の融合はおもしろい!
京都東インターを降りて、祇園に向かう狭い通りに入って、「おっ」と思う。高速道路ではどっしり安定していたのに、市街地に入るとコンパクトカーらしい軽やかな身のこなしを見せたからだ。嵐山周辺のちょっとしたワインディングロードに足を伸ばしたときにも、ひらひらと身を翻した。
高速ではどっしり、山道ではきびきび。ふたつの顔を持つクルマの基本骨格はエンジンと同じくルノーと日産、そして三菱のアライアンスで新開発したもので、ルーテシアで初めて採用された。「3人寄れば文殊の知恵」ではないが、三者連携の産物であるパワートレーンも足まわりも、ポテンシャルが高い。
そして本日の目的地、「衹園びとら、」に到着。町家をリノベーションしたレストランで、フレンチの修行を積んだ谷口晶紀シェフが京野菜などの地場の食材にこだわって腕をふるう。
たとえば、この日の「本日のメニュー」のひとつだった「亀岡の七谷鴨のハチミツ焼き」に使われた鴨は、京都の亀岡で長年にわたって地鶏を扱ってきた農家が精魂込めて育てたものだという。うまい! 肉の味が強い。
料理のコンセプトは“フレンチと和の融合”とのことで、それは「美人良(びとら)鍋」と命名された鍋料理にもよく表れていた。パッと見は和風であるけれど、フュメ・ド・ポワソンというフレンチの手法で魚介類からとった出汁は、風味にコクを生んで濃厚だ。そのスープのなかに、京野菜と魚介が閉じ込められている。日本の道をフランスのクルマでロングドライブした体験もふくめて、日仏の融合はおもしろい! と、感じた1日だった。
また、フュメ・ド・ポワソンでとった芳醇な出汁と京野菜がとてもよくマッチしていたこと、そして、もうひとつは、高速道路から狭い路地までをカバーすることになる日本の自動車旅行に、フランス生まれのルーテシアがとても適していることの2つが、今回の旅の発見だった。
考えてみればフランスも市街地は道が狭いし、バカンスや週末に都市間を長距離移動する人々も多い。まさに今日、僕たちがしたような使い方を想定して開発されているわけで、フランス車が日本の道路事情に合うのも、当たり前だったわけだ。
翌朝、嵐山周辺を散策して東京への帰路に着く。そして、京都から約150kmの岡崎サービスエリアで、ルーテシアのハンドルを担当編集に譲った。
東京まで運転するつもりだったけれど、後席も座っておいたほうがいいのではないかという勧めに従ったのだ。
そして──。気づいたら神奈川県の厚木周辺だった。180cm級の成人男子がリラックスできるくらい後席も快適だったので、いつのまにか寝落ちしていたのである。
見ても、乗っても、座っても、寝ても、新型ルノー ルーテシアは、日本にぴったりなコンパクトカーであった。