2021.02.22
新型ルノー キャプチャーは“小さなグランド・ツアラー”である
フルモデルチェンジした新型ルノー キャプチャーはデザイン、走行性能、居住性など全方位で進化した。
乗れば乗るほど実感出来る“味わい深さ”に迫る。
老若男女、だれが乗っても似合う
ルノーの新型コンパクトSUV、キャプチャーを目の前にして、2021年というこの時代にふさわしいデザインであると思った。というのも、SUVといえば「男らしい」とか「マッチョ」という言葉で表現される、どこかゴツそうなデザインが主流だったのに、キャプチャーはそうではないからだ。
キャプチャーのパンと張った面の構成はアスリートの筋肉を思わせるが、それは「マッチョ」というよりも、贅肉のない爽快さを印象づける。いっぽうで、黒く塗られたルーフとボディカラーが2トーンになっているのがスタイリッシュだし、ボディ後方に向かってゆるやかにドロップしていくルーフ・ラインはエレガントだ。
つまりキャプチャーは、「がっちりしているから男らしい」とか、「優美だから女性っぽい」とかの、旧来の「男性的」や「女性的」といったたぐいの表現とは、しっくりかみあわないスタイルをしているのである。「男性的」でも「女性的」でもない。そのどちらでもあり、どちらでもない。そこが、ジェンダーの揺らぐこの時代の気分にマッチしていると感じるのだ。ことばを換えれば、キャプチャーは老若男女、だれが乗っても似合うクルマ、ということだ。
また、派手なグリルでアピールするというような策を弄することなく、クルマ全体のデザインの統一感で勝負しているのも好ましい。その造型は、あたかも無垢の金属を削り出して得られたかのようにソリッドで彫刻的だ。カタマリ感が格好いい。
ドライバーズ・シートに座って思うことはふたつ。
まず、水平基調のすっきりとしたデザインが、清々しい。同時に、宙に浮かんでいるようにも見えるセンターコンソールが、「この手があったか」と思わせるデザイン的なウィットを、フランス流にいうなら「エスプリ」を、感じさせる。さらに、樹脂パーツの色や艶がシック。
また、ナビや空調を司る液晶パネルやインストゥルメントパネルがドライバーに向かってオフセットしているので、ドライバーズ・シートの住人は、計器類に囲まれたパイロットであるかのような高揚した気分になる。クルマ好きにはうれしいポイントだ。
走り出すと、ステアリングや操作類の各種スイッチの触感がしっとりとして心地よい。そこには人間の感覚をリスペクトするやさしくソフトなタッチとテクスチュアがある。人間を大事にしているなあ、と感じるのだ。こういう柔らかさは、座り心地もふくめたルノーの伝統だと思う。
しっとりとした乗り心地
コンパクトなSUVではあるけれど、タウン・スピードで感じるのは、ほとんど重厚といいたくなるほどの、しっとりとした湿り気のある、落ち着いた乗り心地だ。基本骨格をおなじくするルーテシアよりも155mm長いボディを持ち、より多くの人間と荷物を積んで遠くへ出かけるSUVらしい使い方に供されるクルマだけに、よりタフに仕立てられていると考えてよく、そのため100kgあまり車重が増えたことが、乗り心地の重厚さにも寄与している。
高速道路に入っても、しっとりとした乗り心地は変わらず、しかも、速度を上げるにつれ、姿勢のフラット感が増していく美点が際立ってくる。高速道路でフラットな姿勢を保つクルマというのは本当に気持ちがいいもので、不様な揺れがないから目線を一定に保つことができる。4輪のサスペンションそれぞれが自在に伸び縮みしながら車体をフラットな姿勢に支えている。これぞ、ルノーだ。
むろん、直進性は抜群にいい。バカンスの季節に荷物を満載してオートルートを何百キロメートルも走るフランス人家族さながらの使い方をしても楽しいだろうし、ドライバーの疲労も少ないだろう。小さなグランド・ツアラーなのだ。
さらにもうひとつ。ステアリング・フィールがいい。タイヤがどの方向を向いているかはもちろん、路面がどんな感じか、ということまでが、それこそ手でさわっているかのようにくっきりと伝わってくる。だから、追い越したあとすぐに走行車線に戻るレーンチェンジをすることが楽しくさえある。
高速道路をゆったりとした巡航しているときに感じるのはエンジンの力強さだ。ルノーと日産、そして三菱の3社が共同で開発した1.3リッターのガソリン直噴ターボエンジンは、余裕があるというレベルを超えてパワフルで速い。アクセルペダルを踏み込むと、軽量コンパクトなボディは予想の3割増しぐらいの勢いで加速する。
基本的にはルーテシアに積まれるエンジンと共通であるけれど、SUVに適したチューンが施されており、最高出力も最大トルクも強化されている。乗り心地のチューンも含めて、ルーテシアのたんなる“着せ替えSUV”ではない。
新開発のデュアルクラッチ式7速ATは、変速したことに気づかないくらいスムーズに、かつ素早くギアを変える。アクセルペダルを操作してスピードをコントロールする行為それ自体が楽しいので、高速道路でのクルーズが少しも退屈じゃない。
都心から約100kmの、本日の経由地である御殿場にはあっという間に到着した。
官能のSUV
御殿場での目的は、フランス版ミシュランガイドでアジア人初の3つ星を獲得した小林圭シェフが御殿場に開いた「Maison KEI」に立ち寄ることだ。
フランス生まれのキャプチャーに乗って、パリの3つ星シェフが開いたレストランに行くのは、「フランスには行きたしと思えどもフランスはあまりに遠し」のいま、フランス旅行にもっとも近い体験といってもよいのではないか。料理も最高だった。
海辺を目指し、カーブが連続する山道を走る。
“無垢の金属を削り出したよう”に見えると形容したボディは、ワインディング・ロードでスポーツ・ドライビングに興じると、たくましい凝集感によって痛快なドライビングを助ける。加速、減速、旋回を繰り返すと、その人車一体感にほれぼれする。全高1600mmに近いやや背の高いクルマであるにもかかわらず、ステアリング・ホイールを切った後に上屋が遅れてグラっと傾くようなことがない。タイヤから屋根までが一体となって動く。
乗り心地は、ワインディング・ロードでもあいかわらずいい。サスペンションがしっかりと動いている。コーナーの入口でステアリング・ホイールを切り込むと、ごく自然な感覚で車体がじんわりとロールし、外輪に荷重をしっかりかけて、路面をがっちりと、そしてしなやかに掴んで、コーナーをクリアする。速いとか遅いとかではなく、心地よいコーナリングだ。
美しい海を背景に写真を撮りながら、後席や荷室の広さをチェック。資料によれば、このクラスのSUVとしてはいずれも最大級とのことだけれど、たしかに広い。後ろの席は身長180cmの筆者でも余裕を持って座れるし、簡単な操作で後席を倒すと荷室はさらに拡大する。
バカンスのシーズンに、家族や仲間と荷物を満載して、こんな海に行くのが似合うクルマだ。
帰路の高速では、運転支援装置を試す。
前を行くクルマに付いて行く機能(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は、一度停まっても自動で追随して再発進するから、渋滞での疲労やストレスを減じてくれる。車線を維持する機能も効果的に働く。本来の直進性のよさとあわせて、まさに鬼に金棒だ。
運転支援装置を試しながら感じるのは、インターフェイスの使い勝手がいいことだ。追従する機能は直感で操作できるし、ハンドル操作をアシストする車線維持機能も、わずらわしいとは感じない。ちょうどいい塩梅で介入する。
先進的な機能であるけれど、人間の感性に寄り添ったチューニングが施されている。
新型ルノー キャプチャーは、目で楽しむデザイン、内装素材の触感のよさ、手に伝わるステアリング・フィール、コーナーでの滑らかなロールなどなど、すべてが人の五感にやさしく訴えかけてくる。官能のSUVなのである。