Renault Presse #068, OCTOBER 2017 Words=Kenichiro Uda

日本発売1周年を迎えたトゥインゴ パリと日本で支持されるその理由とは?

• 　　ルノー トゥインゴは、発売時から女性からの人気も非常に高いうえに国産車からの乗り替えも多く、日本でも大きな支持を獲得している。その人気の秘密はリアエンジン・リアドライブ（RR方式）による最小回転半径4.3mを実現した小回り性、広い室内空間、0.9Lターボエンジンと6速EDCの組み合わせ^＊1が生み出す機敏かつスムーズな走り、ひと目でそれとわかる高品質の内外装デザインなどが挙げられるだろう。

• 　トゥインゴはルノーで最も手頃なスモールカーだ。「Tailored for PARIS＝パリが仕立てたコンパクト」なるコンセプトからも分かるように、パリに代表される欧州の街並みをイキイキと駆け回るために、トゥインゴは作られている。いわば「フランス人のゲタ」というか、さすがにフランス人はゲタを履かないから、さしずめ「パリジャン、パリジェンヌのスニーカー」だろうか。

• 　トゥインゴはすでに欧州Aセグメント^＊2市場でもトップをうかがう人気だが、最大の魅力はやはりデザインだろう。トゥインゴの姿はキュートでありつつも、同時に力強い。また、ある年代以上の皆さんには懐かしさを覚えさせもする。その懐かしさの源泉は、そのデザインが、1970〜80年代にフランスの絶対的ベストセラーだったルノー5（正確にいうと、それをリアエンジン化したラリー用マシンの5ターボ）を彷彿とさせるからだ。　

トゥインゴのひと目でそれとわかる個性的なスタイリングは、パリジャン・パリジェンヌのたしかな審美眼に応えるものだ。

　パリといえば、最新モードを発信し続けるファッションとアートの街。しかし、同時に2,000年以上の歴史と伝統をもち、世界遺産級の建物が立ちならぶ。そんなパリの審美眼には「新しいのに懐かしい、伝統を感じさせるのに斬新」なトゥインゴがフィットするのは当然である。

　ただ、ルノーのチーフデザイナーであるローレンス・ヴァン・デン・アッカーによれば、その5ターボをリスペクトするデザインアイデアは、最初からあったわけではないという。トゥインゴは世界的にも珍しい「リアエンジンのスモールカー」だが、リアエンジンにすると、ボディ四隅にタイヤが張り出してノーズが短くなる。そんな独特のプロポーションを前にあらゆるデザインを検討していたところ、ひとりのデザイナーが勝手な思いつきから5ターボのシルエットを当てはめた。すると、それが見事なまでにマッチしたのだとか。芸術や発明の歴史を振りかえっても、本当に優れた作品・製品とは、ときに偶然ともいえる閃きで生まれるものなのかもしれない。

象徴的かつセンセーショナルな5ターボを想起させるデザイン。トゥインゴの個性はルノーのヘリテイジから継承されている。

　リアエンジンレイアウトは、ひと目でそれと分かるデザインだけでなく、トゥインゴならではの美点の多くを生み出した。たとえば、小回り性能と広い室内空間はその筆頭だ。クルマの部品で最もかさ張るエンジンをボディ後端の床下に置くことで、トゥインゴはフロントタイヤが驚くほど大きく切れて、3,620mmのコンパクトな全長に、人間のための空間を最大限に確保。また、駆動輪が後ろにあり、その直上にエンジンがどっしり載ることで、加速時の駆動力が存分に引き出せるのも、リアエンジンの大きなメリットである。

　歴史ある旧市街の風景を大切に保存するパリには、細い路地や石畳の路面、急な坂道が多い。小回りがきいて、坂道もキビキビと登るリアエンジンは、そんなパリでこそ活きる。わずかなスキ間にねじ込むように縦列駐車…というパリスタイルにも、4.3mの最小回転半径やスモールカーとしては高めのアイポイントが武器となる。

小回りがきいて、坂道もキビキビと登るリアエンジンレイアウト。4.3mの最小回転半径はパリの縦列駐車をものともしない。

　パリジャン・パリジェンヌは分不相応の贅沢や必要以上のモノは求めないが、自分らしい審美眼と自由な生活は絶対に譲らない。その意味では、ひと目でそれと分かる小さなボディに、日常生活に必要なすべての機能を詰め込んだトゥインゴは、まさにパリのライフスタイルそのもの。なるほど「パリが仕立てたコンパクト」である。